大判例

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神戸地方裁判所 昭和25年(ワ)108号 判決

原告 西山新四郎

被告 深谷ますゑ 外五名

一、主  文

被告等は原告に対し神戸市垂水区霞ケ丘一五三一番地の一上家屋一戸を明渡し、かつ昭和二十三年七月一日から右明渡ずみになるまで一月につき被告吉田寿恵は金二百二十七円五十銭被告深谷ますゑは金七十五円八十三銭その余の被告等は各自金三十七円九十一銭の各割合による金員を支払わねばならない。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は全部被告等の負担とする。

本判決は原告において被告深谷ますゑ、同俶子、同克子、同祐司、同昇司に対し各金二千円、被告吉田に対し金一万円の担保を供するときはそれぞれ仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告等は主文第一項の家屋を明渡しかつ、昭和二十三年七月一日から右明渡ずみになるまで各自一月金二百二十七円五十銭の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とする、との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「原告はその所有にかかる神戸市垂水区霞ケ丘一五三一番地の一上家屋(以下本件家屋と略称する)を訴外深谷竜三に対し賃料一ケ月金二百二十七円五十銭毎月末翌月分払の約定で賃貸していたところ、同訴外人は昭和二十三年四月頃原告の承諾を得ることなしに本件家屋を被告吉田に転貸し、爾来同被告が原告に対抗する何等の権原に基かずこれに居住して占有し、原告の所有権を侵害している。よつて原告は昭和二十三年六月中頃内容証明郵便で前記深谷竜三に対し無断転貸を理由に本件家屋に関する賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたから本件賃貸借契約はこれにより終了した。よつて深谷竜三は原告に対し本件家屋を原状に復して返還しなければならないのに拘らず、これを履行せず昭和二十六年九月十九日死亡し、その妻である被告ますゑ、長女である被告俶子、二女である被告克子、長男である被告祐司、二男である被告昇司が右竜三の本件家屋返還の債務を相続承継した。そこで原告はここに被告等に対し本件家屋の明渡並に昭和二十三年七月一日から右明渡ずみになるまで各自一月につき金二百二十七円五十銭の割合による賃料相当の損害金の支払を求めるため本訴に及んだのである。」と述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告主張事実中、深谷竜三が原告主張の本件家屋をその主張のような約定で賃借していたこと及び被告吉田が現在本件家屋に居住していることは認めるがその余の事実は否認する。被告吉田は深谷竜三の叔母であるが、長く夫と事実上離別していたため自活することができず、竜三の扶養をうけてきたところ、既にその夫も死去したため引続き竜三の扶養をうけねばならない境遇にある。そして竜三は仕事の関係上やむをえずその勤務先の会社の寮である神戸市垂水区高丸町二二四七の六九番地に転出したけれども、その後も引続き本件家屋を占有し被告吉田を扶養するためこれに居住せしめて依然としてこれを使用している。竜三が被告吉田に対する扶養の一方法として自己の賃借権に基き同被告を本件家屋に居住させるのは正当であり、前記無断転貸を理由とする原告の明渡の請求は失当である。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が訴外深谷竜三に対し原告所有にかかる本件家屋を賃料一ケ月金二百二十七円五十銭毎月末翌月分払の約定で賃貸していたこと及び現在被告吉田が本件家屋に居住することは当事者間に争なく成立に争のない甲第二号証に原告及び被告吉田本人訊問の結果を綜合すれば、昭和二十三年三月下旬頃深谷竜三は本件家屋から退去し、その後へ原告の承諾をうることなしに被告吉田の一家三人を居住させたことを認めることができる。そして被告等は本件家屋は深谷竜三が依然として使用占有しているもので、被告吉田は竜三の被扶養者として同人の賃借権に基き居住しているものであると主張するので検討するに、成立に争のない乙第一、二号証に証人和田辰男、江崎孝一の各証言並に被告吉田本人訊問の結果を綜合すれば、被告吉田は深谷竜三の母の妹であるが、神戸市垂水区高丸町の親戚のもとに寄寓していたところ、同家が阪神ゴム株式会社の寮になつたので、会社と無関係の者が住むのは工合がわるい等の事情もあつて、同会社の取締役である竜三が右寮へ移転するのを好機にその後へ被告吉田が移り住んだこと。同被告は約十年前から夫と別居し甥竜三から経済上の援助をうけてきたのであるが、その夫も既に死亡し、また子女二名のうち一名は県庁に勤務しているが一名は失職しているため竜三が経済的援助をして来たことを認めることができる。併しながら他方成立に争のない甲第二号証、証人飯野竹二郎及び原告本人訊問の結果真正に成立したと認められる甲第四号証及び証人飯野竹二郎、武居代志子の各証言並に原告及び被告吉田本人訊問の結果を綜合すれば、被告吉田と深谷竜三は前示移転にあたりそれぞれ本件家屋の近隣に正式に移転の挨拶にまわり、また竜三は母親を除く家族全部とともに高丸町に移転しそれに伴つて配給籍もそれぞれ移したこと。本件家屋に残留した母親も一年位経て竜三のもとに移つたこと。前記竜三の移転後満四年を経過した今日なお竜三及びその家族は高丸町に居住し、(後段認定のように竜三は昭和二十六年九月死亡)右母親の移転後は被告吉田一家が本件家屋を独占して使用収益している事実を認めることができるのであつて、甲第四号証中竜三の母親が竜三とともに高丸町に移転した旨の記載は被告吉田本人訊問の結果にてらし信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして以上認定の事実を綜合考察すると、被告吉田は深谷家から家計の補助をうけているものの深谷竜三とは別個独立の生計を営むもので、たとえ前叙のように竜三の母親が本件家屋に残留し、よつて竜三が表面賃借人たる地位を維持していたにせよその占有の主体はむしろ被告吉田であり、同被告は本件家屋を独立して占有するものと判断すべきであつて、竜三は本件家屋の利用関係に関する限りその事実上の支配は前示移転とともに被告吉田に移したものと認められるから、かかる場合においては被告吉田は深谷竜三の同居人乃至留守番としてその賃借権の範囲内で本件家屋を占有するものと解することはできないから、結局深谷竜三は賃貸人である原告の承諾なしに本件家屋を被告吉田に転貸したものといわねばならない。

そこで進んで本件の場合に原告が果して契約解除権を有するかどうかについて検討する。もとより親族が互に扶養することは我が国古来の淳風美俗であり、濫りにそれを妨げてはならないが、本件家屋の使用関係がすでに転貸である以上、それが単に親族間の援助関係に基くという事由から、賃貸人に対する関係において無断転貸を法律上正当化するのは即断であり、本件において前記転貸借が賃借人の賃貸人に対する信義誠実の義務に違反しないとする事由の存在することは全証拠によるも、いまだこれを認めることができない。そして成立に争のない甲第一号証によれば原告が深谷竜三に対し無断転貸を理由に昭和二十三年六月十四日付の書留内容証明郵便で本件賃貸借契約解除の意思表示をしたことが認められるのであつて、特段の事情のない本件において右書留内容証明郵便はその性質上遅くとも数日中に被告に到達したものと推認することができるから、本件賃貸借契約は右到達により当時適法に解除されたものといわねばならない。従つて深谷竜三は原告に対し本件家屋を原状に復して返還する義務あり、又被告吉田は原告に対抗する何らの権限なくして本件家屋を占有してその所有権を侵害し、いずれも原告に対し賃料相当の損害を蒙らせているものと認めるべきところ、公文書であつて真正に成立したと認められる甲第五号証戸籍謄本によれば、深谷竜三は昭和二十六年九月十九日死亡したことが認められるから、右竜三の原告に対する債務は前記甲第五号証によりその相続人として認められる配偶者ますゑ及び直系卑属俶子、克子、祐司及び昇司が共同して承継したことが明かである。

然らば被告等に対し本件家屋の明渡並に深谷竜三に対する本件賃貸借契約解除の日の後であり、又被告吉田が本件家屋の居住を始めた日の後である昭和二十三年七月一日から本件家屋の明渡ずみになるまで一月につき被告吉田は金二百二十七円五十銭被告ますゑは竜三の支払うべき右一月金二百二十七円五十銭に対する相続分三分の一に当る七十五円八十三銭その余の被告等は各自同相続分三分の二を四分した六分の一に当る金三十七円九十一銭(いずれも銭位以下切捨)の割合による賃料相当の損害金の支払を求める限度において原告の請求は正当であるが、既発の本件損害賠償債務が相続により相続人間に分割されるのは勿論家屋明渡債務は不可分であつても、その不履行により将来発生する損害賠償債務は相続人間に可分であるから、右限度を超え、被告吉田以外の被告に損害金の全部の支払を求める部分は失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井末一 西川正世 黒川正昭)

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